取材協力:ハーレーダビッドソンバルコム練馬 / 株式会社バルコムモータース 取材:宮下 豊史
掲載日:2026/08/19
2022年10月に入社した田口かりんさん。開店準備を終えた彼女は、ショールームやバックヤードを見渡した。
「ここ、もう少し使いやすくできそうですね」

田口さんが見渡しているイメージ
誰かに頼まれたわけではない。ウエアの展示方法を少し変え、備品の置き場所を見直し、スタッフが動きやすいよう工夫を重ねていく。それが終わると事務作業を進め、来店したお客様を笑顔で迎える。ときにはツーリングイベントに同行し、乗り換えの相談を受けることも。営業職ではない。それでも見積書を作成し、査定を行い、納車の立ち会いまでこなす。メカニック以外の仕事なら、ほぼ何でも対応できる存在へと成長した。
そんな彼女の愛車は、最新型のハーレーダビッドソン・ロードグライドだ。そう聞くと、「以前からバイクが大好きだった人なのだろう」と思うかもしれない。しかし、その先入観は少し違う。

田口かりんさんの愛車はロードグライドだ。排気量1,923cc、車重380kgのハーレーを颯爽と乗りこなす
田口さんは入社前、バイク業界とはまったく別の仕事に就いていた。不動産会社で経理事務を担当し、ハーレーに詳しかったわけではない。大型二輪免許も、バルコムに転職してから取得したものだ。バイクに対して最初は「興味がある」という程度で、趣味と呼べるほどではなかったという。それでも求人情報サイトを見て、バルコムモータースの門を叩いた。
「暇なのが苦手なんです」
面接でそう話した彼女を見て、支店長の眞嶋信吾さんは「仕事に対して貪欲な人だ」という印象を持ったという。さらに学生時代に部活動を経験していたことも印象に残っていた。チームの中で役割を果たし、上下関係を学び、一つの目標へ向かって努力した経験は、サービス業でも必ず生きると考えているからだ。実際、その読みは当たった。

ハーレーダビッドソンバルコム杉並を取り仕切る眞嶋信吾支店長は、15年ほど前にカスタムショップから転職。バイク業界がブラックだった時代を肌で知るベテランだ
「やることもありますし、作ることもあるんです」
眞嶋さんはそう話す。与えられた仕事だけをこなすのではなく、「もっとこうした方がお客様にもスタッフにも使いやすい」と自ら考え、動く。ショールームのディスプレイも、バックヤードの整理も、自分から提案して改善していく。そうした積み重ねによって店舗全体が少しずつ働きやすくなっていったという。
田口さん自身も、「やりたいと言ったことをやらせてもらえる環境」が、この会社の魅力だと話す。
「自由にやらせてもらえています」
その一言は、決して好き勝手という意味ではない。やるべきことを果たしたうえで、自分のアイデアを形にできる。その自由があるからこそ、仕事が面白い。そして、その自由はお客様との距離にも表れている。
営業職ではない田口さんは、「売ろう」という意識よりも、「自分が使って良かったものを伝えたい」という気持ちを大切にしている。押し付けるのではなく、「私はこう感じました」とユーザー目線で話す。
だからこそ、お客様からは「かりんちゃんだからお願いするよ」「田口さんなら任せられる」と声を掛けられることも少なくないという。営業担当ではない彼女に車両の相談や注文が寄せられるのは、その積み重ねが信頼へと変わっている証拠なのだ。
「かりんちゃんなら、やってくれるでしょう」
そんな言葉を掛けられるようになったのは、決して偶然ではない。ツーリング先で乗り換えの相談を受ければ、自分の体験も交えながら率直な感想を伝える。車両の見積もりを作成し、査定を行い、その後の手続きまで対応する。ショールーム・スタッフという肩書を超え、メカニック以外の幅広い仕事を任されるようになった背景には、お客様との信頼関係がある。
「私は営業じゃないので、変に売ろうとはしないんです。自分がいいと思ったものだけをお勧めしています」
だからこそ、「田口さんだからお願いする」という言葉が返ってくる。それは商品を売る営業力ではなく、人として信頼されている証なのだ。
その姿を最も近くで見てきた眞嶋支店長は、「彼女だからスタッフも動いてくれる」と話す。本来であれば営業担当やサービス担当の仕事まで自然と橋渡しをし、お客様からの要望を各部署へつないでいく。少し無理のある相談でも、「田口が言うなら、何とかしようか」。そんな空気が店舗の中に生まれているという。

リフトが3台備えられたサービススペース
もちろん、最初からそうだったわけではない。眞嶋さんには一つだけ心配があった。大型二輪免許を取得し、田口さんが初めて自分のハーレーで帰宅した日のことだ。
「家に着いたら必ず連絡してね」
仕事を終え、真っ暗な夜道を一人で走って帰る後ろ姿。テールランプが見えなくなるまで見送り続けたというエピソードを、眞嶋さんは笑いながら振り返る。そのときの心情は、支店長というよりも娘を送り出す親のようだったという。
未経験からのスタートだった彼女も、今ではロードグライドを乗りこなし、お客様と一緒にツーリングを楽しむ存在へと成長した。
「仕事をしながら遊んでいるような感じですね」
そう笑う田口さんの言葉に、この仕事の魅力が凝縮されている。もちろん、遊んでいるだけではない。納車にも立ち会い、ウエアやカスタムパーツの相談にも応じる。仕事として向き合っているからこそ得られる知識や経験が、そのまま趣味の世界にも広がっていく。
一方で、休日は意外なほどバイク漬けではない。彼女の趣味はネイルやショッピング。完全な休日には「バイクのことは考えません」と笑う。つまり、バイクだけが人生のすべてという人ではない。仕事を通じて興味が深まり、自然とハーレーのオーナーになっていた。だからこそ、「バイク業界で働く人は、生まれた時からバイク好き」という固定観念を、田口さん自身が覆しているのである。
このように、個人の裁量で幅広く活躍できる土壌がバルコムモータースにはある。経営本部MC営業部長の吉田 乗さんは、自社の環境を次のように表現する。

大学時代には「ハーレーダビッドソン」をテーマに卒業論文を執筆。創業100周年にあたる2003年には自身のハーレーをアメリカへ送り、現地をツーリングしたという経験を持つ
「個人的には、自由と自分勝手ってすごく似てるけど、真反対だと思うんですよ」
バルコムは決して、何でもありの放任主義ではない。就業規則や、細かく設定されたKPIといった「会社として守るべきルール」は厳格に存在する。さらに、全社員が拠点長と行う月1回のミーティングという仕組みがあり、そこで目標の確認や軌道修正を行っている。
しかし、吉田部長はこう続ける。「ウチは就業規則やKPIこそ細かいのですが、逆にその中身(枠の中)は自由なんです。何をやってもいい」。チームとしての仕事の枠組みやルールをきっちりと守っているからこそ、その中では自由に個性を発揮し、やりたいことに挑戦できる。それこそが、バルコムが定義する「自由」な働き方なのだ。
では、そんな環境で活躍できるのはどのような人材なのか。採用方針について、吉田部長と眞嶋支店長の言葉を組み合わせると、非常に興味深い対比が見えてくる。
吉田部長は、24歳で業界未経験からバルコムに飛び込んだ経歴を持つ。「ハーレーに対する情熱だけで履歴書を送り、採用してもらったんです。必要なことは会社に入ってから覚えました」と当時を振り返る。だからこそ、面接で重視するのは知識や経験だけではない。オンライン面接のモニター越しでも伝わる「目つきがいい人」。つまり「自分の言葉でしっかりと発言できる人」を吉田氏は高く評価する。
一方、カスタムショップや個人経営店などバイク業界に長く籍を置き、現在は採用面接も担当する眞嶋支店長が注目するのは、学生時代の部活動など「スポーツ(チーム競技)の経験」だ(ちなみに田口さんも中学時代にバレーボール部に所属していた)。上下関係やチームプレイを理解し、厳しい環境でも耐え抜いた経験を持つ人は、現場での適応力が高いという。
また、眞嶋支店長は「一生懸命さが伝わること」も不可欠だと語る。多くの企業がある中で「バルコムを選んでくれた」という熱意が重要であり、「ダメだったらあっちでいいかな」という投げやりな姿勢が透けて見える人は採用に至らないという。立派な経歴や豊富な知識よりも、「何かいいな」と感じさせる人間性や熱量を、バルコムは求めているのだ。
吉田部長の面接において、絶対に聞くことがあるという。それは「過去と未来」だ。前職でどんな経験をしたのかという「過去」。そして、ハーレーやバルコムに興味を持った理由や、これからどうなりたいかという「未来」である。
特に「3年後を語れる人」であるかどうかは重要な指標になる。即興でもいいから、3年後の姿を一生懸命に自分の言葉で語ろうとする人は、その瞬間に目つきが変わるという。AIで調べた答えを並べているだけなのか。それとも、自分の言葉で未来を語ろうとしているのか。「将来のことをきちんと考えているんだろうなと感じられる子は、自然と応援したくなるんです」と吉田部長は語る。
その言葉を裏付けるように、過去に「3年後に店長になりたい」と面接で語っていたスタッフは、実際に3年後、店長へと昇格しているという。自分の未来を語る力は、確かな成長の原動力になるのだ。

2026年7月にバルコム杉並へ入社した小島瑞紀さん。大阪府出身でバスケットボールの経験があり、前職はフラワーショップだったという。吉田部長曰く、「彼も『目つき』が良かったんですよ」
最後に、労働環境についても触れておきたい。バイク業界と聞くと、昔ながらの「3K(きつい・汚い・危険)」や、「休みが少ない」といったネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれない。
20年以上この業界に身を置き、かつては週に1日しか休みがないような職場も経験してきた眞嶋支店長は、「バイク業界の悪しき実態を知っているからこそ、今のバルコムは整っていますね」と断言する。現在のバルコムは、当然ながら福利厚生もしっかりしている。有給休暇についても、事前に打ち合わせと申請をすればきちんと取得できる環境だ。
「バイクが好きだから、バイク屋で働く」。もちろんそれも素晴らしい動機だ。しかし、田口さんのように「未経験から働き始めたことで、結果的にバイクとの距離が縮まり、大切な趣味になった」というケースもある。
充実した労働環境と、自由な挑戦を後押しする風土。バルコムモータースなら、仕事を通じてあなた自身の新しい「好き」を見つけられるかもしれない。
JOBIKE編集部より
1903年にアメリカで創業したハーレーダビッドソン。今年で123年目という、まさにアメリカンドリームを体現している二輪メーカーだ。日本において、その長い歴史の一端を担ってきたのが、1967年に誕生したバルコムモータースであり、ベテランライダーの固定客率が非常に高いのも特徴だ。「その長い歴史を次の100年につなげるのが我々ディーラーの仕事だと思っています」と吉田部長は胸を張る。ハーレーというブランドに対し、今もなお「アウトロー」や「近寄りがたい」というイメージを抱く人がいるかもしれない。しかし、今回の取材で出会ったのは、そうした先入観とは違う世界だった。そこにあったのは、お客様を大切にし、仲間を育て、挑戦を後押しする文化。そして、「仕事をしながら遊んでいる」と笑う一人のスタッフの姿だった。
バイクが好きだから、この業界で働く。もちろん、それも一つのきっかけだ。しかし今回の取材で出会った田口さんは、その逆だった。働き始めたことでハーレーを知り、好きになり、仕事仲間やお客様との出会いを通じて自分の世界を広げていった。バイク業界には、そんな働き方もあるのだ。もし今、「好き」を仕事にしたいと考えているなら、一歩踏み出してみる価値はきっとあるだろう。
JOBIKE編集部より