取材協力:株式会社モトピットホンダ 取材:小川勤
掲載日:2025/02/05
「ちゃんとやっているでしょ?」と斉藤豊さん。その直後に「ちゃんとやってるんだよ〜」とどこか照れながら、自ら突っ込んで笑う。確かにちゃんとやっている。しかも、ものすごく真面目に『ちゃんと』やっているのだ。
斉藤さんは45歳(2025年1月現在)。お父さんから老舗を引き継いだ2代目経営者であり、モトピットとホンダドリーム町田の代表である。モトピットは神奈川県川崎市多摩区で40年以上続く地域密着の老舗バイクショップ。そのモトピットを母体とするホンダドリーム町田は東京都町田市野津田町に、2020年7月にオープンした。
「いやいや写真はダメだよ。使わないでしょ!」と、シャイな斉藤さんは数枚シャッターを押しただけで逃げるように退散してしまった。
『ちゃんと』はもちろん商売にも当てはまるが、カスタマー、そして働くスタッフへのきめ細かな気遣いにも当てはまる。斉藤さんのキャラクターは濃い。個性的でもある。熱いというよりは、真面目で素直、そしてどこかシャイだ。しかしそれは全て斉藤さんの魅力に繋がっている。正直にストレートに物を言うが、スタッフとの距離感も独特で面白く、それがスタッフを牽引する力に繋がっている。
「モトピットだけでも細く長くやっていけたとは思います。ただ20年後のビジョンが見えなかったんです。20年後に、肩身狭い思いしながら家でチビチビ呑んでいるのは嫌じゃないですか」と笑う。
周りからは反対の声もあったが、斉藤さんはホンダドリーム町田の新規出店を決断。普段の社長業をこなしつつ新店舗の開業準備に奔走し、オープンに漕ぎ着けた。元々、モトピットでもホンダ車はずっと扱っていたが、ホンダドリーム町田では400cc以上の新車も扱える。
「お客様の層が変わりました。もちろんモトピットのお客様もいますが、新規のお客様もたくさんいます。親父には、ホンダと契約してくれていて良かったと心の底から感謝しています。ホンダはバイクでは世界でいちばん知られているメーカーだと思っています。ニューモデルもスタイリッシュに決めてくるし、絶対的な信頼があります」と斉藤さん。
斉藤さんが求める人材は高校や専門学校を卒業した若者だ。
若者にどう伝えるか、何が伝わるかを模索し、ホンダドリーム町田とモトピットの2店舗混成チームで考えてもらった会社に対するスタッフの想いを基に『私たちモトピットが大事にしていること』を企業理念として定めた。自分の考えだけでなく、現場のスタッフたちが日頃どういう思いで働いているか、その現場の声を企業理念にしたかったというのだ。
もともとホンダ学園での採用活動に向けて会社案内の資料を作成する中で、企業理念に目を留めてもらうことが目的ではあったものの、実際に企業理念を制作する過程でスタッフと意識を共有することで組織力の高まりも強く実感できたそう。
人材育成への取り組みとして、斉藤さんが適性を見ながら選んだ2店舗混成メンバーによる、売り上げ向上のための社内向け課題発表会なども開催している。
こうした動きは、斉藤さんがスタッフの思いを知ることであったり、そしてスタッフ同士の相互理解を深める動きにも繋がっているのだ。
他にも、土曜日は2店舗のスタッフが全員出勤となっており、オンラインミーティングで全体朝礼を行い様々なことを共有。それぞれの店舗が離れていても、スタッフ同士の心理的距離感は近しくなるよう配慮されている。
オンラインでの朝礼では、各スタッフによるポジティブスピーチなどもあり、働き方はバイクショップというよりも現代的で一般的な企業に近い独自の制度が運用されている。そういった動きの一環で、近年よく耳にするカスタマーハラスメントを始めとするあらゆるハラスメントを防止するための講習会も実施しているそうだ。
また、どちらかの店舗に新たなスタッフが入った際は、まずみんなで食事に行く。こうした機会をもつことで、気の合う仕事仲間や話せる先輩とのコミュニケーションが生まれ、その関係ができあがれば、業務に限らずざっくばらんに色々な話ができるようになるからだという。
さらに、管理職以外は残業がなく、入社日から有給が使える。これに加えて2年ほど前からはリフレッシュ休暇の制度を導入。
ホンダドリーム町田のリフレッシュ休暇は入社初年度から5年目まで使え、初年度は5日から始まり、2年目は4日、3年目は3日、と1年ごとに日数は1日ずつ減るものの、5年間に渡って休暇が付与されるというユニークなシステムだ。
「学生から社会人になると色々な経験をするじゃないですか。世代の異なるスタッフや世代の異なるお客様とコミュニケーションを取るのは、新社会人には大変なことだと思う。社会人のルールをいきなり押し付けても…と思って、リフレッシュ休暇制度を作ったんですよ。その代わり、遅刻をしたりするとこの休暇は使えなくなったりもしますけどね」と斉藤さん。
ホンダドリーム町田は、若手に優しい。段階的に環境に慣れていけるような気遣いや、先輩や同僚とも出来るだけ早く打ち解けられるような配慮が非常にきめ細かい。
若手育成には力を入れ、もちろん整備士資格の取得などもサポートする。
「面接の時には将来のビジョンを聞きます。独立したい、って人を採用することが多いですね。そういう方は仕事を早く覚えるし、一所懸命やる。やる気もあるんです」と斉藤さん。
斉藤さんはモトピット&ホンダドリーム町田のミッション、パーパス、バリューのために、皆と色々なことを共有し、若者を育成し、目標に向かっているのである。
営業の川名美鈴さんは、2023年7月に入社。それまでは栄養士で、バイクとは関わりがなかったものの、事務職を探していた際にホンダドリーム町田で働くことになった。現在では原付で通勤するなど少しずつバイクを理解しつつ、見積もりや保険などの書類作成をしながら営業を手掛けている。
「まったく無知な状態で入社しました。バイクはこれまで触れたことのない世界でしたが、しっかり勉強させてもらいながら仕事をしています。仕事を探していたときは事務職のつもりでいましたが、今はお客様との会話も楽しいですね。バイクも売ります!
残業がないのも魅力です。以前の仕事は残業が多かったので、やはり定時で帰れるのは魅力です。また、店長をはじめスタッフの皆との距離感が近く、それが働きやすさになっています。質問したり、聞いたことがきちんと返ってくるのも良いですね」と川名さん。
川名さんとスーさん。2人とも「仕事が楽しい!」と口を揃える。
スー・カズユキさんは22歳。初めての就職先がホンダドリーム町田で、2024年の3月から営業&サービススタッフとして勤務している。趣味はムエタイ。単身でタイやカンボジアに渡り、ムエタイ選手として本格的に取り組んできた。ちなみにスーさんは日本生まれで、お父さんが日本語の通訳をしているとのこと。そして若いのにバイクの趣向はかなりマニアックだ。
「バイクには高校生の頃から乗っていて自分でも触っていました。タイやカンボジアでもバイクに乗り、日本よりも自由な交通環境で楽しんでしましたね。社会人になるのは不安でしたが、今はとても楽しいです。
次の3月に3級整備士の試験を受けます。毎回、違うバイクに触れられるのもいいですね。将来は自分で食べていけるようになりたいので、技術をしっかり身につけたいなと考えています。
ホンダドリーム町田の魅力は柔軟性。お客様のことを考えて皆が動いています。
バイクは少し古めの渋いネイキッドが好きです。CBX400F、CBR250R(MC19)に乗っていたこともあるんです」とスーさん。
誤解を恐れずに言えば、万人に向いた職場ではないのかもしれない。ホンダドリーム町田は人と人との距離が近く、そしてその繋がりが密だ。当然、そういった点を苦手とする人だって、いても不思議ではない。
ただ、コミュニケーションを大切にするという価値観をもち、人との繋がりが好きな人にはとても良い環境だ。高校や専門学校を卒業して資格を取りたい方、技術を身につけたい方、そして人間力を磨きたい、成長したいという向上心がある方には最高のフィールドが広がっている。
2023年の社員旅行は台湾へ。今年はバスツアーで名古屋へ。社員同士のコミュニケーションの場を大切にしている。
地元に根づいて40年以上続くモトピットは、まさに地域密着のショップ。スクーターを筆頭に様々なバイクを取り扱う。作業エリアにあるスクーターは、驚くほど整備が行き届いている印象。そして作業エリアがとても整理されている。
『スクーター=乗りっぱなし』そんなイメージが強いが、モトピットのお客さんは定期的な整備を心がけている方が多い。それは安全に直結し、お客さんの日常を支える。
その秘訣はモトピットからお客さんに郵送される葉書にある。
「待っているだけの商売じゃダメだと思ったんです。それでどう攻めるか、ってなった時にできたのが絵葉書です。始めにお店を知ってもらうきっかけは、お店の存在する立地条件や看板だったりすると思うんです。でもバイクを買ってもらった後はどうする?ってなった時に、絵葉書が決め手になった」と斉藤さん。
絵葉書は気がついたら11種類にもなっていた。お父さんの時代から、お客さんへの葉書は欠かさず送っていた。しかし、斉藤さんがどんどん種類を増やしていったのだ。
まさに気遣いの絵葉書である。自分のバイクの点検のタイミングを知っているライダーは少ない。保証がいつ切れるか認識しているライダーもほぼいないだろう。でもモトピットのお客さんは絵葉書で知ることができるのだ。しかもその中には必ず手書きの文字が書かれているのである。
「バイクを購入してもらったら、点検の時期がわかりますよね。その時点でもう葉書を書いておくんです。だから、2年後くらいまでの分はすでに書いてあるんですよ。例えば保証期限を案内する葉書だと、保証期間内なら無料でできることもあるし、プラスの作業があってもお客様の負担は少なくて済む。葉書を出してからは、バイクを買ったお客さんの半分くらいの方が点検に持ってきてくれるようになりましたね」と斉藤さん。
この葉書郵送はモトピット独自の施策だが、ホンダドリーム町田でも直筆のメッセージなどを大切している。斉藤さんは人との繋がりをとても大切にしているのである。
JOBIKE編集部より
ホンダドリーム町田、そしてモトピットで働くことはある意味、皆とファミリーになることのような気がした。人同士の距離感がとても近いのだ。
毎日、決められた仕事をしているだけのバイクショップではなく、逆に様々なことを経験できるから、やる気さえあればショップ経営そのものを学べるし、利益や売り上げを上げるためのプロセスも知ることができるだろう。
「親父に褒められたことはほとんどないですね。自分が作った葉書を見た時は『これいいじゃないか』って言ってもらえたから、そのくらいですかね。商売のことも親父からはあまり教わってないんです。ただ、親父がきっと言いたかったであろうことを代わりに言ってくださる方がいて。特に横浜のアルファスリーさんには仕事や商売の楽しさを教わりました。
親父のことを周りから聞くことも多くて、それで親父の仕事への姿勢を知ることもたくさんありました。あ、親父に唯一言われたことがありました。『どんなに経営がキツくても、社員旅行はやめるな』ってことですね。これは遺言です」と斉藤さん。
モトピットとホンダドリーム町田は年に1度、社員旅行を行っている。行き先は海外、国内様々だ。他にも暑気払いや忘年会など、スタッフ同士のコミュニケーションの機会が多いのも特徴。「ま、俺が飲みたいだけなんだけどね」と斉藤さんは笑う。
「若いスタッフを食事に誘う時は、当日いきなり誘うようにしています。そうするといきなりだから、断りやすいでしょ。これが1週間後って話になると、来ないといけなくなるしさ」と、どこまでも人を想い、人間味に溢れる斉藤さんなのだ。
JOBIKE編集部より
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