取材協力:丸富ホールディングス株式会社 取材:小川 勤
掲載日:2025/12/26
神奈川県の老舗バイクショップである丸富ホールディングスは、2018年辺りから凄いスピード感で組織改革を行っている。事業をこれまでの1店舗で複数のメーカーを取り扱うスタイルから、大型のメーカー専門ディーラー店にシフトし、毎年のように大きな出店・リニューアルがスタートしているのだ。そしてこの変革は、これからもこのスピード感と共に続いていく。

1962年に創業した丸富モータース。1975年には、神奈川県で初のハーレーダビッドソンの取り扱いを目的として外車部を設立。1978年に本社移転に伴い丸富オート販売に社名を変更。1979年には日本初となるBMWモトラッド専門店としてBMW店をオープン。一時期は20拠点を持つ国内最大級の巨大バイクショップグループとして神奈川県の横浜&湘南エリアでショップを展開し、とくに中心地の横浜六角橋の駅からの通りは「丸富ストリート」というくらい地域では「オートバイ=丸富」という存在であった。
そして2018年に丸富ホールディングスを設立。その辺りから事業を1店舗で複数のメーカーを取り扱う店舗から大型のメーカーディーラー店に切り替え、現在にいたる。企業理念は『モーターサイクルを通じて、お客様の豊かな暮らしや夢の実現を応援すること』。2018年に始まった、組織の大改革は信じられないほどの速さで進み、現在は以下の事業を展開している。
・ハーレーダビッドソン新横浜
・モトラッド横浜
・カワサキプラザ新横浜、横浜金沢、横浜山下
・ホンダドリーム新横浜、横浜戸塚
・YSP新横浜(2026年春横浜市神奈川区にて新規OPEN)
・レンタルバイク横浜
・REAL ESTATE(貸店舗、事務所、土地活用事業)
今回の取材は、長田省吾代表取締役の話からスタート。他にないスピード感(2018~2021年の3年間で6店舗の大型店の新規OPEN)とスタッフが個性や実力を発揮しやすい環境づくりに驚かされた。しかし驚きはそこで終わらなかったのである。その後、多くのスタッフの皆さんと話をするほどに、筆者(小川勤)はとても心が温かくなっていった。そして最後には、感動的な気持ちが訪れていた。
それは新卒から現在まで勤務し続けているスタッフがとても多かったから。さらにスタッフ同士、スタッフとお客様といった人が繋がる形、バイクを通じて生活が豊かになっていく形が理想的に見えたからだ。

丸富ホールディングス株式会社 代表取締役 長田省吾さん
幼い頃からバイクが身近にある生活を送り、大学卒業後にアメリカのアリゾナ州にあるMMI(Motorcycle Mechanics Institute)というメカニック育成の専門学校に通った経歴を持つ。アメリカ、ハーレーダビッドソンが好きで、スピード感のあるビジネスを展開。そのスピードは、今後さらに増していきそうだ。
長田代表取締役:「2016年あたりに店舗運営に対する危機感を感じはじめました。世界的な排出ガス規制による魅力あるラインナップの減少や車両本体の価格の高騰。そして現在もそうですが、進んでいくユーザーの高齢化といわゆる「若者のバイク離れ」など複数の要因が重なり、オートバイは誰でも欲しがる移動手段というより、明確に「趣味性の高い特別な乗り物」に変わってくる、そう感じたのです。
現在、グループでの年間販売台数は2000台。しかし、当時は今の5倍となる1万台を販売していました。5倍売っていたということは、スタッフも5倍の人数がいました。このやりかたで新しい時代を乗り切れるか、そういった疑問を感じ始めたのが「危機感」のきっかけでした。
改めて「オートバイは趣味性の高い乗り物」つまり「趣味=人生を豊かにさせてくれる」こと、そんな想いが高まり、これから訪れる時代にそなえ、売上・販売台数はもちろんですが「最高の顧客サービス」を目指すことに方針変換し、人・モノ・サービスの最上級にこだわり数よりも質に方向転換をしました。
そんな時にメーカーの施策も変わっていきました。ホンダはドリームでないと、カワサキはプラザでないと大型車を販売できなくなる。値引き競争でなく、価格に左右されない質の高いものを提供していくメーカーの施策と私の考えが合致したんです。ショップもスタッフもレベルを引き上げ、お客様に質の高いものを提供していく方向性でいくことに決めました。
弊社は、お客様へのサービスは他店とは一線を画しています。バイクを買っていただくだけでなく、その後のサービスを徹底しているのです。これはメーカーを問わず、どの店舗も同じです。店舗にご家族と来ていただき、コーヒーを飲んだり、アパレルも見たりしていただける空間づくりを心がけています。また、2ヶ月に1度くらいのペースで全店のお客様が集まれる食事会を無料で開催。そこにお客様にご家族と来ていただくのです。もちろんそこには全店のスタッフも参加します。
お客様とスタッフの交流はもちろん、お客様同士、スタッフ同士が様々なことを共有するのです。すると他メーカーからの乗り換えになったり、お客様の紹介も増えたりします。メーカーイベントでも弊社のテントにお客様とそのご家族にゆっくり寛いでいただく空間を提供することを心がけています。また四半期ごとにミーティング後に全スタッフの食事会も行います。ここで他店との情報共有をしています。
また、2026年からは人事評価制度を導入します。職種ごとに資格、行動、数値目標などをポイント制にして等級にわけていくのです。等級が上がれば、給与も上がります。経営者の忖度もなく、数字に対しての目標をクリアしていくのです。また、国家資格の整備士免許だけでなく、ホンダやカワサキなどのメーカー資格があればそれもポイント(コスト)になります。この等級は、半年ごとに評価していきます。
新しく入ってきた方も自分の等級がわかりやすいと思います。どうすれば昇給できるかも一目瞭然です。ただ協調制やチームワークといった評価ポイントもあるので、1人でスタンディングプレーをする方は求めていません。この制度は、全てのスタッフが同じように上がっていくのが目的です。なぜならば、チーム力がないとお客様を納車まで丁寧にご案内できないからです。
この制度にはスペシャリストという職種もあり、これは例えばサービスでもITが得意、会計が得意という方のための制度です。例えば、BSPL(貸借対照表/損益計算書)が見れたらそこから商売の戦略を練ることができますからね。
『背中見て仕事を覚えて…、下積みはずっと洗車を…』それでは夢も希望もなく辞めてしまうのは当然です。若い方が、自分が将来どうなっていくのかがわからなかったら不安ですよね。そこで成長モデルを築いていこうと考えたのです。上の人のリザルトが見ることができると、どこを頑張ればいいかがわかりやすいですから。
2018年あたりから複数メーカーを取り扱う店舗から大型メーカーディーラー店に商売をシフトし、お客様に我々を知っていただき、満足してもらうための販売のプロセスはわかってきました。今後は、それを担ってくれる人、会社の思いや方向性を理解してもらえるリーダー的な人材が増員できれば、エリアをいただければですが店舗を増やすこともできます。
私はこの横浜、神奈川区エリアで育ったので、この地に還元していきたいとも考えています。バイク(仕事)を通じて私生活を豊かにしたい。それはお客様に対してもスタッフに対しても同じ考えです。
やっぱり大好きなオートバイを購入して、ツーリングやカスタムなど、ユーザーの人生に、楽しみと豊かさをより付加すること、お手伝いできること、これが弊社の最大の企業価値と捉えています。
例えばハーレーダビッドソンのCVOを購入する方については、その「豊かさ」を提供するためにどうするのか。「最高の顧客サービス」はなにかを考えます。CVOを販売するのは一筋縄ではいかないのも事実です。600万円、700万円ですから。最高のモデルへの最高の接客をこころがけています。おかげさまで、オーナーからは大変満足をいただいているようです。
イベントに行って、アンケートや動向をとって、少しでも興味を持ってもらう人を探します。そういう方をいかに見つけるか、興味を持っていただくためのお客様を探すことから始めるのです。もしくは既存のお客様にステップアップしてもらうために、イベントを開催したり、遊びの場を提供したりする。『ここまでいくと幸せになる』ということを伝えるのです。これがお客様もスタッフも幸せになるプロセスだと思っています。
弊社は無限大に成長できる環境を提供します。バイク業界で将来が見えないからどうしよう…という方が、もう一度輝ける場所を提供したいですね」


中村さんは、東京工科自動車大学校のハーレーダビッドソン専科を卒業し、20歳の時に新卒で入社した29歳。2019年からカワサキプラザ新横浜のオープニングスタッフとして勤務する。
中村さん:「時代の流れ、周りがどんどん変わって行く中で、弊社もスピード感を持って変わっていっていることを肌で感じています。このスピード感に戸惑いがないと言ったら嘘になりますが、働きやすい環境です。バイク業界だけでなく、色々な業界が変わっていっているので、こういった変化に臨機応変に対応できて楽しめる方が向いています。2026年からスタートする人事評価制度は未知の部分ではありますが、社員のことを思ってくれての制度だと思っています。まずはバイクに関して、神奈川県で一番のグループ、企業になりたいですね」

大羽さんは整備学校を卒業後に新卒で入社した39歳。高校生の頃から丸富オートにお客として出入りし、学生時代、丸富オートにインターン制度がなかった時代に自ら交渉して体験就職。カワサキプラザ横浜金沢のオープニングからメカニックを務める。
大羽さん:「組織の体制が変わり始める前に15年間ほど勤めていたので、2018年あたりからすごく変わったことを実感しています。そのタイミングで店舗は展示スペースだけでなく、作業スペースもとても綺麗になりました。リフトも充実しており、身体の負担も少なくなりました。お客様の雰囲気も変わってきており、気軽にお店に立ち寄っていただける方が増えましたね。サービスですが仕事は整備だけではありません。お客様とコミュニケーションを取り、その情報をセールスと共有します。コミュニケーションを取るのが好きな方が向いていると思います」

左から。坂間さんは20歳の時に新卒で入社した42歳。竹迫さんは丸富オートの47年来のお客で、産業用ロボットや溶接機のメンテナンスをしていた経歴を持つオールドルーキー。福山さんは、20歳の時に新卒で入社した27歳。新卒とさまざまな経験をしているベテランがチームとなっている。
竹迫さん:「前職を辞めて、配送の仕事として丸富グループに携わりましたが、2ヶ月前からサービスの見習いとして働いています。周りの方が素晴らしく、毎日、会社に来るのが楽しいです。教えてくれるし、面倒を見てくれます。年齢的に大型バイクの押し引きがキツイこともありますが、気がついたらサポートしてくれていたりします。離れて仕事をしていても周りの皆が気をかけてくれるのです。ちなみにホンダドリームがオープンした8年ほど前にゴールドウイングを購入したのですが、その時のサービスが坂間さんだったんです(笑)」
坂間さん:「竹迫さんが入社された時はびっくりしましたが、もう慣れて仲間として働いています。昔からフレキシブルな会社なんです(笑)。会社の変革については、明るい気持ちがとても大きかったです。実はバイクショップで働いていた方が中途入社するパターンはあまりなかったのですが、今後そういった方が来たらどうなるのかな、と思います。ただ他のホンダドリームから来られても弊社は少し違うと思います。サービスですが、周囲を見てサービス以外の仕事もしなければなりません。ドリームに関しては初期から全て見てきていますので、なんでも聞いていただければと思います。ちなみにドリームで最初にメンテナンスしたのは、竹迫さんのゴールドウイングです(笑)」
福山さん:「新卒で働き始めて、8年目。東京工科自動車大学校のハーレーダビッドソン専科を卒業し、丸富オートで働きたいと思って入社しました。丸富オートは色々なメーカーを扱っているので、様々なことを経験できると思ったのです。BMWで色々と学び、半年ほど事務業務を経験。その後、ホンダドリーム横浜戸塚でサービスを行っています。学生時代の友人は転職している人もいますが、僕は途中で辞めたいな、と思ったことは一度もありませんね。弊社は、お客さんとの距離がとても近く、それが他のショップとの一番の違いです」

左から。2000年に入社した46歳の吉野さんは、グループの新人研修部門(職業訓練校)の講師などを経験し、現在は車両メーカーや取引銀行との交渉も担当している。以前の丸富オート販売からの経験や組織・課題もすべて掌握している最重要なポジション。現在は軸足をハーレーダビッドソン新横浜におく。二瓶さんは専門学校を卒業後、新卒で入社した35歳。ハーレーダビッドソン、BMW、KTMを経て5年ほど前からハーレーダビッドソン新横浜に勤務する。
吉野さん:「ハーレーダビッドソンが好きで入社しましたが、ハーレーダビッドソンに本格的に携われたのは昨年の11月から(笑)。それまでは、グループの新人研修部門(職業訓練校)の講師として年間の事業計画を練ったりしていました。現在、このシステムはなく、各メーカーの研修に参加する制度に変更しています。
筆者より※当時から社内での職業訓練部門という新人研修部門が設置されている二輪販売店をはじめて伺い驚いた。
スタッフの定着率が高いのは、『スタッフをイチ作業員として見ていないから』かもしれません。今はパーソナルの部分に触れることは微妙な時代なのかもしれませんが、自分もそうだったのですが、弊社はそういった部分も含めて受け入れるところがあります。普段から家族の話をすることもあります。会長がそういうところを気にかけてくれる方なんです。その考えは皆に受け継がれていますね。
「ハーレーダビッドソン新横浜」では常に「最高の接客」「最高の顧客サービス」を心掛けています。ハーレーダビッドソンが認定するスター制度(ハーレーダビッドソンジャパンが国内ディーラーを対象に行っている表彰制度「バー&シールドプログラム」のことで5スターが最高評価)の最高ランクの5スターを日々目指し、最上級の顧客対応を常に意識し、オーナーはもちろん、そのご家族にも満足していただけるように、スタッフ全員で「人生をより豊かにするバイクライフの実現」を追求しています。物を売ろう、ではなくあくまで購入後に満足していただくことを心がけました。今後も顧客満足度を維持・向上を目指し、様々なことをブラッシュアップして企業の価値を上げていきます。
今回の求人ですが、バイクを何も知らない方に来ていただきたいですね。知らなくても、お客様が喜んでいることが自分の価値になる方がいい。そういう方が成功すると思っています。10代、20代の方も大歓迎です」
二瓶さん:「自分は、東京工科自動車大学校のハーレーダビッドソン専科を卒業しているので、その卒業生が来てくれると嬉しいですね。皆と協力をしながら、やるべきことをやっていればお客様が来てくれるし、お客様に喜んでいただけると思っています。サービスですが、お客様にアフターパーツの提案もします。車検や整備の際には、お客様の車両のコンディションはもちろん、カスタムの好みなどを把握して提案することを心がけています」
JOBIKE編集部より
丸富モータースの創業者であり、現会長である長田憲治さんは、とても魅力的で人情味に溢れる方なのだろうなぁと思った。僕はお会いしたことはないが、今回、話を聞いた皆さんが、会長のことが大好きで、尊敬していたからだ。
「親父は専門店施策には大反対だったんです。でもスタッフの幸せを考えたら変えざるを得なかった。そのため親子で今後の業界の展望を見据えて、会社の方針を何度も何度も話し合いました。親父は私の中ではレジェンド。人への気遣い、優しさ、コストよりも困っている人を助けたくて、この規模の事業になっていったのもよく理解しています。当時は販売ルートがなく、欲しくても手に入らなかったハーレーダビッドソンを独自のルートで自分たちで輸入したり、国産の大型車を逆輸入したり、物凄いことをやってきた人です。なんでも知っているんです。そういう元で育ったからこそ、いいところは残して、社員を守っていこうと決めたのです」と長田さん。
そして今回、話を聞いた皆さんが、会長の意思をそれぞれの想いで解釈し、仕事や人生に活かしていることが伝わってきた。それが丸富ホールディングスの人の繋がりを作っているのは一目瞭然だった。
スタッフ間の仲が良く、それがスタッフとお客様との関係を築き、お客様同士が仲良くなることに繋がる。そうすると、良いお客様が、新しいお客様を紹介してくれるようになるのである。そんな、バイクをきっかけとした一期一会を皆さんが大切に育んでいる。
JOBIKE編集部より
丸富ホールディングス株式会社
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