取材協力:株式会社スピード 取材:小川勤 / 写真:齋藤寛和(Casablanca Sound Films)
掲載日:2024/05/31
取材を終えて、僕は「結局のところ、原田さんと働けるかどうかですよね?」と聞いた。
「まあ、そうですね」とスピードモーターガレージ(以下、スピード)代表の原田將弘(はらだ・まさひろ)さん。
スピードは少しマニアックな様々な外車を取り扱う福岡県福岡市のバイクショップだ。様々な、と簡単に書いてみたが、取り扱いメーカー数は多く、過去を振り返ればその数はさらに膨大。マイナーなメーカーも多く、だからスピードには "人と違うバイクが欲しい人" が集まる。
原田さんがどんな人なのかは原田さんのSNSを見るとわかりやすい。いつもニカッと笑い、バイクの販売情報ではなく独自のコンテンツを展開。ローダーへのバイクの積載方法や自身のバイク紹介、さらにはロイヤルエンフィールドの350ccシリーズを売るためにホンダのGB350の試乗車を用意したりと、こういった原田さんの持つ独自性は枚挙にいとまがない。
原田さんのキャラクターは、かなり濃い。人として魅力的だが、それを個性が強すぎると感じる人もいるだろう。その一言一言は力強いし、説得力もある。「好き嫌いはハッキリすると思います」と自分でも言う。
「ただ、スタッフの皆のキャラクターが強まってきたら、僕のキャラクターを薄くしたいんですけどね」とも言う。原田商店ではないし、それではダメ。そうならないように原田さんはスタッフが自分らしく活躍できる場所を提供する。
「入ってきたばかりのスタッフに言います『絶対に諦めないで欲しい。俺も絶対に諦めないから』って。求人っていうと、明るくて気が利いて、バイク好きな人を……っていうじゃないですか、そんな人いないんですよ。だから最初は多くを求めません。スピードに入って考え方が変わってくれたらいい。自分から動けるようになってくれるといいなって思います。
でも考え方って変わるんです。人は半年もすると変わります。今いるスタッフもそう、指示を待つのでなく自分から動きます。もし、自分でやりたいことをやって失敗してもそれが経験じゃないですか。営業でも整備でも、どんどんチャレンジして欲しいですね」と原田さん。
スピードでは、良い人がいればセールスでもメカニックでもいつでもウェルカムだという。
「仕事って8時間あるじゃないですか。1日の1/3が仕事なんです。だから仕事が楽しいと人生が楽しいと思うんです。だから好きなことを仕事にして長く楽しんもらえると良いですね」と原田さん
「バイクはもちろん好きなんですけど、今はバイク"ショップ"が好きなんですよね。お客さんの喜んだ顔を見るのが、好きです」と原田さん。
バイクショップの仕事は主にセールスとメカニック。ただ、スピードのメカニックの多くはセールスも兼業する。そして、お客さんに頼まれた作業以上のことをサービスとしてお客さんに提供する。それはお客さんに納得してもらうためと、さらに喜んでもらった上で、お金を支払ってもらうためだ。
「今日はあのメカニックが休みだからわかりません……とは言えませんよね。効率的にはセールスとメカニックは分けた方が良いけど、お互い何をやっているかわかるようにしています。ただ、最近はセールススタッフも入れています。
僕も元々は整備士ですが、性格的にも営業が得意だったんです。SNSもその一環。アップする時にお客さんを想像し、実際にアップするとその人から連絡があったりするんです。こういった種まきも大事。SNSに関してはスタッフの皆にやってもらっています。こうしたことも言われてやるのでなく、自発的にやれる仕事のひとつですよね。
SNSにアップして、お客さんに店に来てもらって、バイクを購入してもらって、お客さんに笑顔になってもらう。この喜びを知って、スタッフにもバイクショップを好きになって欲しい。『また、原田さんにハメられて買っちゃったよ~』なんて言われたら、それが最高の褒め言葉ですよ」と笑う原田さん。
原田さんはスタッフ一人ひとりが自らの壁を超えていくことを望んでいる。自分のレベルをひとつずつ上げていってくれれば良いと考えているのだ。
「僕がバイクを1台売るのと、入社したばかりのスタッフが1台売るのでは、ハードルの高さが異なりますよね。でも、1から10まで全てに口出しはしません。ゲームも同じですが、最初から最後まで攻略法を知ってしまっていたら、つまらないですよね?自分のハードルを超えた時の気持ちよさを知って、それによって成長して欲しいのです」と原田さん。
僕はそういえば今年で2年連続、東京モーターサイクルショーにてスピードのスタッフの面々にお会いした。
「今年は全員行きました。でも会社からは経費を2/3しか出していません。それでも行きたい人は……と言ったら、嬉しいことに全員が手を挙げてくれました。やはり自分でコストを負担していると意識が変わるし、吸収することが違うんです。結果、色々なことを吸収して、アイデアが出せるようになったり、それで仕事ができるようになれば給料も上がります。今は本当に皆、持っている力を出してくれています。そしてスピードは日曜日と月曜日が休みなので、そういったところを強みにした動きもしています」と原田さん。
経験を仕事に繋げるのが原田さんの考え。それに応えるようにスタッフは自分に投資し、成長していく。そんなスタッフの皆の声も聞いてみた。
実は今回のこの記事に掲載されている写真や映像は、スピード傘下で活動する制作スタジオ、Casablanca Sound Filmsの齋藤寛和さんによるもの。バイクショップで制作スタジオをグループ内に有するというのは物凄く珍しいと思われるが、元々はスピードのお客さんのご友人だった齋藤さんが、原田さんと意気投合し、原田さんが撮影機材などをサポートする形で映像を制作している。
下記が作例だが、見ての通りかなりハイレベルだ。
「失敗してもダメだって否定されることがないんです。なぜ失敗したか、どうしたら次は上手くいくかと言う話になります。もちろん教えてくれることもたくさんあります。自分の世界だけでやっていたら絶対に気づかないことや、世界の広がりが実感できます。
1人だったら、限界を感じて辞めてしまうかもしれない、諦めてしまうかもしれない。でも原田さんはそんな時にきっかけをくれます。だから挑戦が怖くなくなるんです。そしてその挑戦が面白いことだったらサポートしてくれます」と齋藤さん。
バイクショップの仕事は様々。SNSでの種まきからスタートして、こんなクリエイティブ集団とも仕事をする原田さんは、確かに他のバイクショップにはないバイタリティが魅力だが、見方によってはエキセントリックだろう。でもだからこそスピードにいれば、自由なことができるし、自分の限界を超えられるのかもしれない。
スピードは全店、緑の看板が目印。看板だけでなく、ローダーや社用車も緑。「SPEEDロゴをデザインしてくれた看板屋さんが最初に出してきたのが緑だったんです。他の色も作ってもらったんですが、しっくりこなくて……緑が一番よかったんです」と原田さん。
JOBIKE編集部より
原田さんが多くのメーカーを扱うのは、『他の人と異なる趣味性の高いバイク』を求めるお客様を笑顔にするためだ。よくわかる。でもカンナムは……と思い「カンナムはどう売るんですか?」と聞いてみた。
「カンナム、乗ったことありますか?」原田さんはニカッと笑う。「ないです」と僕。「じゃあ、行きましょう。でも、最初は試乗はしてもらわないんです。まずはタンデムです。バイクにはない、開けた視界を感じてください」と原田さん。
すでにお店の周りに原田さんが決めた試乗メニューが用意され、三輪特有の様々な挙動を体感。コーナリング特性や、砂の浮いた場所でのブレーキング、タイヤが浮いたり滑りそうになると自動でブレーキをかけることも体感。「あー、これはやられてしまうだろうな〜、上手いなぁ〜」と思った。
「車検に出してくれたお客様の駅までの送り迎えなんかにも使います。カンナムやウラルで迎えに行ったら面白いでしょ。絶対に変なのが来た、ってなります。その中の1人が、いいねってなるかもしれない。そういうのを想像し、次に繋げていくのを考えるのが楽しくて仕方ない。皆にもこんな繋がりを考えて欲しい」と原田さん。またしても「上手いな〜」と思う。
原田さんと知り合って数年が経つが、原田さんは「僕は運がいいんですよ」とよく言う。でも僕は原田さんが運を引き寄せているのだと思う。行動し、経験し、それをスタッフに伝え、スタッフの成長を自らのハードルとしている原田さんだから色々な話が舞い込む。今回もこれから始まる試みや商材の話をたくさん聞かせてくれた。
スピードモーターガレージはバイクショップのスタッフとして腕を磨く場所でもあるが、人間力を磨く場所でもあると思った。
JOBIKE編集部より
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